2010年12月24日

知的所有権を克服できるか #cablegate #wl_jp


まず、嬉しいお知らせ。
ついに国連が、米州人権委員会と一緒にウィキリークスに関する共同声明を発表しました。
同サイトのアメリカの、私企業に働きかけて同サイトをシャットダウンするような強引なやり方をはっきり非難し、情報アクセス権など言論の自由を守れとしっかりくっきり言明しています。邦訳はこちら

で、本題。
アメリカがスウェーデンの知的所有権・著作権強化に影響を与えようとしたことが分かる公電を以前のエントリで紹介しました。

その公電自体はウィキリークスには、まだアップされていなく、SVTで伝えられただけでした。とあるブログで原文の一部を紹介していたのですが、1219日に、海賊党の党首、Rick Falkvingeのブログで全文が公開されました。

前回のエントリを上書き(全訳アップ)したので興味のある方はご覧になって下さい。

611が、アメリカがスウェーデンに課した6箇条の内容となっており、前回はその部分が欠けていました。アメリカが、インターネットの規制に関してどのような具体的な指示を出したかが書かれています。

そして興味深いのは、1415段落。特許医薬品の値下げについてアメリカが好ましく思っていないことが書かれています。端的に言えば、アメリカの製薬会社が稼げるようにしたいから。一見、インターネットと何の関係もなさそうなこのテーマも、知的所有権という大きなテーマでつながっています。

知的所有権や著作権は私的所有の極致です。情報や音楽といった無形のものまで線引きされるわけですから。でもネットという場は囲い込み(エンクロージャー)には向かない。(海賊党のTrobergとアサンジの写真にはCopy-rightの代わりに、Creative commonsのマークが燦然と輝いている。)だから、私的所有の矛盾が一番現れる場所なのかなと。
(医療知識も共有され、公平に提供されるべきなのですが、いったん市場化してしまうと難しい。ヒポクラテスの誓いなんて簡単に破られている現実…)

そのネットを無理やり私的所有の枠に当てはめようと、アメリカはずっと「努力」してきました。ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)含め、言論の自由を追い詰める政策が世界規模でとられてきました。青少年健全育成条例もその流れのひとつ。子どもが重要な鍵を握るのは、件の公電の11を見れば一目瞭然。知的所有権の普及教育がミッションの1つとなっています。(こういった議論に関する素敵なエントリ→青少年条例案・GFWほか各人権侵害政策の現状

件の公電(20093月)には、知的所有権(IPR)が専門の警察官はスウェーデンにはいないとなっています。しかし、その「努力」のかいあって、20096月には15人のファイル共有問題専門の警察官が誕生しています。
参照記事Fler poliser satts in mot fildelare(Svenska Dagbladet)
(ちなみに記事によると、この15人はそれぞれ違う部署から引っ張られてきたそうです。その部署の穴はどうするんだ…と、まず思ってしまう。)

そういった文脈で考えても、冒頭で触れた共同声明の意義は大きいです。とても。
とりわけ、4と5はプロバイダーなどの私企業の恣意的な決定でユーザーの権利を侵すことはできないとはっきり述べている。

この路線が各国で受け入れられれば、今回のウィキリークス騒動の最大の成果となるかもしれません。そしてその成果が、もう出始めているかもと思わせるニュース↓

P2Pとかその辺のお話)

深刻なリークもあり、やるせない気持ちにもなる中で、180°とはいかなくても、30°くらいは世界はひっくり返るかもと思わせてくれた共同声明でした。


2010年12月21日

老舗リークスとウィキリークス

[追記]
今年4月、ガーディアン紙がすでにCryptomeのウィキリークス・リークについて詳細にまとめていました!
Who watches WikiLeaks?(これ訳した方が早かった…)
norfillsさんのツイートで知りました。

***

とある新聞のコメント欄に、
「なんでウィキリークスなんてのがこんなに騒がれてるのか、俺にはちっとも分からんよ。だって、こんなの新しくも何ともないだろ。」
とありました。

私はまた、お馴染みの「ウィキリークス意味なし」論者か…と思っていたのですが、よく読んでみると、

告発サイトなんてものは前からあったのに、何で今さらウィキリークスだけがこんなに注目を浴びてるの?ということをこの人は言いたかったようでした。

告発サイトは確かに昔からありました。
(ウィキリークスはプレゼンがとてもうまかった、ということは大きいとお思います。アサンジも表に立つ人間という点では、かなり好ましい見た目と話術がありますし。)

そういった老舗リークスとも呼べるようなサイトの代表格がCryptomeです。



Cryptomeは1996年から、在野の研究者と、設計者のJohn YoungとDeborah Natsiosによって運営されいて、2010年11月までに58,000のファイルを公開してきました(25ドルでそのアーカイブDVDも売っています)。

サイトいわく、
Cryptomeは政府が発行を禁じているドキュメントを受け付けます。特に、表現の自由、プライバシー、暗号、民間及び軍両用のテクノロジー、国防、諜報、密約(公開または機密になっている書類)についてのドキュメント。ですが、それらに限られているわけではありません。

とのこと。

戦争関連のリークは、特に注目を集め、その結果、政府からもマークされるようになりました。
(サーバーダウンとか、FBIがやってきたりとか)

先輩にあたるCryptomeを、当然ウィキリークスも認知していたわけで、ウィキリークスとCryoptome設計者のYoungは2006年から2007年にかけてメーリング・リストを通じた交信がありました。

全部をきっちり読んだわけではないのですが、どうやら最初は協力的だったYoungが徐々にウィキリークスのやり方が気に入らなくなったようで、その結果、「秘密のメーリング・リスト」でのやり取りを、なんと自分の告発サイトで公開してしまったのです。

Youngはウィキリークスのやり方はCIAとかソロスのやり方と一緒だ、と非難しています。
「中国の反政府活動家がこっそり米国や中国からたんまりもらっている[ウィキリークスだって、裏からもらってるんじゃないか?ということが言いたい]。何が連帯だ!」

「お前らは詐欺師だ!俺はこのメールを公開するからな!」

とかなり強い調子。

それに対してアサンジは
「ジョン、それはやめてくれ。君はこのメールを受け取ってるんだから、隠し事なんてしてないって分かるだろう。」
「我々がCIAの手下だって君が思ってるとしても、メーリング・リストにいる人間全員をそういう風に扱う(晒す)べきじゃない。」
と答えてます。

まあ、結局Youngは公開したわけですが。

これを読んでいると、初期の手探りの状態も垣間見れます。(誰がメンバーなのかお互い分からない、そのことを楽しみながらもちょっと不安である、とか、自分の電話番号は公開しないで~とか)

あのダニエル・エルズバーグにもコンタクトをしていたようです。
リークの達人であるあなたに指示を仰ぎたい、そして保護者の立場になってほしいとお願いしています。ちなみに、そのメールには、2006年の時点ですでに13ヶ国から100万以上のドキュメントを受け取っていると書かれています。

なかなか返事が返ってこないもんだから、「ああ、ちゃんと届いてるかな。迷惑メールに分けられてるとかないかな。誰かエルズバーグのメール・ボックスをチェックしないか。」と心配していたよう(笑)

2007年の1月にやっと返事が来たと思ったら
「いやー、君らのサイトは相当やばいね。幸運を祈るよ。あと、サイトで僕を引用してくれたのは嬉しいけど、あれ、本当はアビー・ホフマンが言ったんだよ。自分はバカで傲慢だったかもしれないなあ。でもあの時ほど僕はもう若くないから。」
とだけ書かれていました。

個人的に印象的だったのは、アサンジの「言葉づかい」に対する洞察。

「僕たちは言葉づかいについて一貫性を持つべきだ。単語やフレーズは、使われ方や経験と共鳴して、意味を抽出する。たとえば、『よくある質問』のところで、『倫理的なリーク』というフレーズがたまに使われているが、僕たちはこのフレーズを常に使うべきなのか?『リーク』という言葉自体はネガティブな意味をを帯びる。『倫理的』は非常にポジティブだ。『倫理的なリーク』はポジティブ。だけど、『リーク』に『倫理的』をくっつけている限り、『リーク』だけ切り離したとき『リーク』は非倫理的ということになる。このフレーズや他の言葉から離れてみることはできないだろうか?『倫理的リーク・ムーヴメント』。力強い。だけど、このフレーズで僕たちのヴィジョンの熱気は消えてしまわないだろうか。

僕らなりの『イラク自由作戦(Operation Iraqi Freedom)*』の言葉を、僕たちは見つけなければ。もっとも病的で邪悪な僕たちの敵でさえも、夜には思わず口ずさんでしまうようなそんな祈りと浄化の言葉を。

僕らには新たなフレーズが必要だ。『リークまとめ役』、『メール送信ボランティア』、『倫理的漏洩者』『WLサーバー・オペレーター』などなどに替わるフレーズが。」

*訳注:「不朽の自由作戦」への挑戦として。

以下、原文。
> We should be consistent in our use and invention of language. A word or
> a phrase extracts meaning from its resonance with other usages and our
> experiences.  For instance in the FAQ we sometimes use the phrase
> "ethical leaking". Should we always use this phrase? 'leak' by itself
> carries a negative. 'ethical' a strong positive. 'ethical leaking' a
> positive. But it does isolate 'leaks' as being non-ethical unless we
> stick 'ethical' on them. Can we make a movement from this phrase and
> others? 'The ethical leaking movement'. Powerful. Can it survive the
> heat of our vision?

> We must find our own 'Operation Iraqi Freedom' s -- blessings and
> sanctifications that even our most diseased and demonic opponents will
> find themselves chanting to each other in the night.
>
> We need a phrases for 'leak facilitator', 'mail drop volunteer',
> 'ethical leaker', 'wl server operator' etc, etc.

言葉が思想や運動を形作る、ということを大事に考えている人なのだなと感じました。
また、リークが誰かを傷つけるかもしれないということに対して、決して無頓着でなかったということも感じ取れます。

ちなみに、これに対して仲間の1人は、
確かにWLが批判されるとすれば、無差別なリークという点かもしれない。でもWLが倫理的だということを強調しておくのはいい考えだとおもうけど。
と応答しています。

話が脇道にそれて申し訳ないのですが、wikileaks.infoというWLのコピー・サイト(ミラーでなく)を巡る議論があるようです。

このMLを見ると、wikileaks.infoはwikileaks.orgと同時にできたことが分かります。

今確実に分かっていることというと、
wikileaks.infoは

非公式サイト
wikileaks.orgのドメインがリダイレクトされている
今のところ有害サイトではない(将来的な可能性は示唆されている)
ロシアの犯罪集団のサーバー(Webalta、通称Wahome)にある
wikileaksは認知してきた(少なくともアサンジがガーディアンで公開ツイート・チャットに参加した12月3日までは)

などです。

このロシアのサーバーというのがSpamhausが懸念している一番の原因と思われます。
実際、有害サイトは多いので。
でも、どんなサイトでも放置状態、規制がないので、「危ない」サイトにとっては使い勝手がいいのも確かです。だからなのか、Anonymousもこの危険なサーバーを利用しています。
これ以上のことは、分かりません。
点と点をつなげていろんなことを想像できますが、はっきりしたことが言えない今、とりあえずは、このサイトについてはここまでにしておきます。

2010年12月19日

東京発の公電の基本データ #cablegate #wikileaks

なかなか東京からの公電はアップされないですね。
でも、全公電の日付とタグは公開されているのをご存知でしょうか。
例えば、ガーディアン紙。
初日の報道で基本的なデータを紹介しています。

WikiLeaks embassy cables: download the key data and see how it breaks down

同記事にあるリンクの
DATA: every cable with date, time and tags, EXCLUDING BODY TEXT (via Google fusion tables, subject to heavy traffic)
(Google経由で)

または

DATA: every cable with date, time and tags, EXCLUDING BODY TEXT (Zipped CSV file, 3.1MB)
(ダウンロード形式で)

で、公電の発信元、日時、タグがチェックできます。
(今更という感じもしないでもないですが…)

東京発の公電のほとんどが2005年〜2010年。
それ以前は1985年が2点、1990年、1992年、1993年、1995年が1点ずつとなっています。
その理由は、同記事を読むと分かります。

今回リークされた公電はSIPRNetというインターネット・システムが使われています。
(Top secretがないのは、そうした情報のやり取りは別のシステムで行われているから。)
911以降、情報の共有化を目指し、各国にある米大使館がSIPRNetにどんどん参加するようになりました。
つまり、それ以前はあまり使われていなかったからなのです。

議題が分かるタグを見てみると、
2717点の公電にOIIP(International Information Programs/国際情報プログラム)のタグがつけられています。

さらに、

2026点にPINR(Intelligence/諜報機関)
1861点にELAB(Labor Sector Affairs/労働部門)
300点にPHUM(Human Rights/人権)
36点にPINS(National Security/国防)
32点にPHSA(High Seas Affairs/公海)
2点にPROP(Propaganda and Psychological Operations/プロパガンダ・心理操作)

のタグがついています。

国別で見ると、

456点が KN(Korea (North)/北朝鮮)
209点がCH(China (Mainland)/中国本土*)
60点がRS(Russia/ロシア連邦)

とあります。
(全部のタグを調べたわけではなく、思いついたものや、パッと見て多そうなものをチェックしただけですので、あしからず。)

なんてことを、ちんたら調べてたら…
もっとすっきり、さっさと整理してくださった人が!(英語ですが)

Wikileaks and Japan – an idea of what to expect (1985-1995)

Wikileaks and Japan – an idea of what to expect (1)  

(上記エントリ、いずれもTokyo Digital journalismから。 )

このエントリを和訳した方が良かったかも…。
同ブログで、アフガニスタン戦争のWar Logsの中から日本に言及した資料をピックアップして、目次まで作っている…。
これを見て「科学ジャーナリズム」という言葉を、改めて心に留めようと思いました。
いや、仕事が早い!

全公電中でJA(日本)のタグがついているのは 7122点。
5697点が東京発の公電と言われているので、単純計算すると1425点は他国にある米大使館からの公電ということに。

余談ですが、エルサレムの大使館からの公電も2217点と多い。
てか、エルサレムに米大使館があったことすら知らなかった。

あらためてデータを見ると面白いかもしれません。