2010年12月17日

ストックホルムでの自爆「テロ」とWikiRebels放送のタイミング

先週土曜日11日にストックホルムで自爆「テロ」(これをテロと言うべきなのか、私には分からない)が起きました。

その事件に関する不可思議な点について同ブログで言及しました。

補足すると、軍関係者が事前に事件がどこで起こるかなどを知っていたという記事、Dagens Nyheter(DN)ではまだ読めます。

DNや他紙は、TT(スウェーデンの通信社)からの情報をもとにこの報道をしました。TTは、かなり慎重にニュースを流すことで有名です。そのTTが「信用できる情報筋によると」と言っているのは重要な点だと思います。
(情報筋を曖昧にしているのは、情報提供者の特定を防ぐためだと思います。)

TTが国防軍や公安にこの情報に対するコメントを求めたところ、ノーコメントだったそうです。

私自身はいまだに、この件に関する訂正記事を見つけられていません。


ところで、SVT(スウェーデン・テレビ)が製作したWikiRebelsというドキュメンタリーについてのエントリーを覚えていますでしょうか?
(普段は海外からアクセスできないSVT Play(SVTのネット配信映像コンテンツ)も、この番組に限ってはアクセスできるようになっているんだとか。)

放送は12日。自爆「テロ」の翌日でした。

本来であれば、ドキュメンタリーのあとに、討論番組Debattが予定されており、そこにはウィキリークスと協定を結んでいる海賊党の副党首、Anna Trobergも出演予定でした。

 しかし、自爆「テロ」のために討論番組は中止。

番組ページのコメント欄には
「今日、見れる番組ができた(^_^)」との視聴者のコメントに続き、

Troberg本人が

「残念だけど、今日は私を見ることはできないよ。昨日の爆破事件のせいで、ギリギリになって番組の一部は延期になっちゃたから、私は出ないんだ。でも番組(ドキュメンタリー)は見てみて!絶対見る価値あり。」

とコメントを返しています。

タイミングがよすぎるなあ、というお話。。


Assange&Troberg

ちなみにTrobergという名字を訳したら、「信山」。信がつくなんて、よくできた名字。

スウェ─デン議会選挙がウィキリークスに与えた影響 #cablegate #09STOCKHOLM141


[追記]
とんでもない誤訳をしてました。公電の題名、AARGH! SWEDISH PIRATES SET SAIL FOR BRUSSELSのAARGHは海賊(党)の雄叫びで、これを書いた人間の悔恨の叫び(もぉぉぉぉ!)ではないです。訂正しました。 

[追記2]
 公電の特定タグは09STOCKHOLM141と判明。
また、海賊党の公式ホームページに、公電に関する英語の記事が載りました。

 
***

海賊党がアメリカにとって脅威だったのは間違いありません。
彼らは、まったく自由なインフラ作りを呼びかけたわけですから。

今回リークされた外交公電によって、アメリカの海賊党を潰したいという意図が白日の下さらされました。

海賊党に関する公電を紹介します、と言った翌日、偶然にもガーディアン紙で海賊党関連の公電が取り上げられました。
どんな内容の公電に関心があるかというのを読者に募集したところ、海賊党関連のものも多かったようです。(問い合わせたのはネット・ユーザーが多いから、ということかもしれませんが)
WikiLeaks cables: You ask, we search

ガーディアンで取り上げた公電は
「がおぉぉぉ!スウェーデンの海賊がブリュッセルに出航した(AARGH! SWEDISH PIRATES SET SAIL FOR BRUSSELS)」というタイトルのもの。

パイレート・ベイを閉鎖に追い込んだ政府決定が気にくわない若者が支持したという分析があり、

著作権や特許権関連の法律を変革し、盗聴法案に反対である海賊党は、選挙の勝ち組だと書かれています。(公電ではwiretapping lawと率直な表現が使われているのが面白いです。)

すでに記事の翻訳が!
→ 海賊党の成功、スウェーデン政府に対する若者の不信 (ウィキリークス・ウォッチ・ジャパン)



さて、実はもうひとつ海賊党関連の公電があるのですが、チェックしたら、実はこれ、まだウィキリークス本家に上がってないのです。
SVT(スウェーデン・テレビ)のニュース映像でのみ、テキストが見れたのですが14日に期限切れとなってしまいました。
この放送されたテキストをあるブロガーが転載し、それをTassaが訳したというわけです。

そのブログはこちら→ Krafsklotter

ウィキリークスにまだアップされていない公電ですが、

・SVTが放送したということ
・ガーディアンの関連記事
・公電が打たれた時期の政治状況

を考慮すれば、これは本物だと思います。
(SVTがウィキリークスに申し込んで、公電25万を取得し、独自取材で発見したということだと思います。)

ただ、本家にないものなので、アップされるまでは転載するかは個人の判断にお任せします!

また、件のブロガーは何かのソフトウェアを使って、テキストをコピーしたと見え、欠けや変な表記が混じっています。また、公電は完全なものではありません。

SVTがカラーにした部分を本翻訳文でもカラーにしています。

***
要約。

スウェーデンが2009年の監視国(Watch List)という立場でなく、スペシャル301条を率先して進めていく立場を取り続けることを、ストックホルム大使館は推奨している。我々は、国際知的財産連盟(IIPA)と米国製薬工業協会(PhRMA)が異なる勧告を出していることを認識している。スウェーデン政府は、昨年我々と話し合ったスペシャル301条イニシアティブ行動計画の6項目のうち5項目を達成した。また、スウェーデンおけるインターネット上の海賊行為を是正強化するためにスウェーデン政府がやり遂げなければならない微妙な国内政治問題がある。大使館[訳注:原文ではpost]からの勧告は以上の2点に基づいている。スウェーデン政府は、善意を持って、非常に否定的なメディアの風潮と若者の間で盛り上がっている運動に取り組むこと。例えば、我々が特に注意したいリスクがある。それは、ファイル共有問題に関するメディアの否定的な見方が、2009年6月の欧州議会選挙で海賊党に有利に働くというリスクだ。

2.(SBU) この公電は、スペシャル301条2008年レビュー(B参照)の結果、我々がスウェーデン政府に提示したスペシャル301条イニシアティブ行動計画の達成率を再検討したものである。大使館【post】はスウェーデン政府内と非常に建設的に関係を築き、ス政府高官の重要人物とも通じており、良好な関係を持っている。昨年のレビュー後にあった行動により、法的枠組みを強化され、海賊行為に立ち向かうより良い法的手段もが整った。パイレート・ベイ公判はストックホルム地裁で現在審理中である。公判最終日は3月4日で、判決は3月25日あたりに出ると言えるだろう。

3.(SBU)[ストックホルム大使館]は、現時点でウォッチ・リストはスウェーデンに対し逆効果だと思っている。ウォッチ・リストに入ることに対する、政治的及びメディアの否定的な反応は考慮に入れなければならない。この件に関する主要責任者である法務大臣は、しかと覚悟しており、何が喫緊の問題かということも分かっている。ネット上の海賊行為を抑える適切な次の段階については、現在、企業・エネルギー・通信省と争議している。今や、知的財産権強化法[IPRED法のこと]の実施はついに4月1日施行されようとしており、 パイレート・ベイ訴訟の最初の地裁判決もすぐであるから、法務大臣の注意は他の重要問題に向けられている。とりわけISPの責任問題や追跡能力を上げるさらなる手段についてである。(法務大臣に牽引されている)ス政府は、この問題を推進するために繊細でバランスのとれた行動をとらなければならない。時期は、スウェーデンがEU議長国になる直前、オバマ政権の初期、欧州議会選挙の選挙活動が始まる頃だ。

要約終わり。


背景 ----------
4.(U) 国際知的財産連盟(IIPA)は、スペシャル301条年次報告をアメリカ合衆国通商代表部(USTR)に送った。報告では、ネット上で広がる海賊行為や、スウェーデンで問題になっている犯罪的著作権侵害を是正する効果的な法執行が難しいということが認められている。またIIPAは、スウェーデンが2009年、スペシャル301条にの監視国となるよう要請した。産業界からの要求があったにもかかわらず、スウェーデンは2008年には監視国と指定されなかった。むしろ、比較的最近になって徐々にスペシャル301条イニシアティブとして名前が上がるようになっていた。イニシアティブの一部として、大使館【post】はスペシャル301条行動計画をス政府に伝え、そこには米国政府が2008年中に達成を望む6項目も載っていた。



行動計画の進捗状況報告
5(U) 2008年スペシャル301条イニシアティブ行動計画には6つの特定領域における勧告が入っていた。ス政府は、程度は異なるが、このうち5つの領域で役割を果たした。6領域における進捗状況について次の6-11のパラグラフにある。
6(SBU)産業協議会/ISP[インターネット・サービス・プロバイダー]の責任:2008年の秋/冬に、ス政府は産業協議会を開いた。一連の協議会は、プロバイダーと著作権団体による自主的な産業協定について議論するという明確な目的があった。産業界関係者が伝えたところによると、プロバイダーは自主的に何か行動することは気が進まないようだ(プロバイダー側は[気が進まないのではなく]できないと言っている)。2008年秋の協議会第1ラウンドは何の成果もなく終わった。法務大臣は現在ス政府内で、第2ラウンドで承認が得られるよう動いている ーー つまり、自主的な協定ができない場合は立法化すると脅しをかけている。産業・エネルギー・コミュニケーション省大臣が率いる中央党にはある程度の抵抗があり、交渉はス政府高官レベルで行われている。

7(U)差止請求権:まったく成果がなかった1項目は STOCKHOLM 00000141 002 OF 003 行動計画第 2項、差止請求権である。スウェーデンの現行法の中に適当な手段があると、ス政府は主張しており、新法導入をするつもりはない。(それとは反対に、レンフォース[Cecilia Renfors*]委員会の勧告、つまりファイル共有問題について調査を委任された政府研究によって、産業界の主張は裏付けられたことに留意。ス政府はレンフォース勧告は実行されないということを明言している。留意点、以上。)

*Cecilia Renfors...スヴェア上訴審裁判所(高裁にあたる?)の裁判長。2007年に『ネット上の音楽と映画 ー 脅威、それとも可能性?』というレポートを発表している。

8(U)知的財産権強化[IPRED]法の実施:225日に法案は議会で承認され、新法は2009年4月1日から発効となる。微妙な政治的要因により、連合政府にとって法案をまとめる最終作業は非常にデリケートなものとなった。多くの議論や交渉が公で行われ、個々の議員には相当なプレッシャーがあった。ゆえに、法案可決はス政府の勝利であり、その勝利は表面上よりもずっと大きいものだ。もともとの法案と比較した場合、主な変更は、本法律は溯及効がないということ。つまり、IP番号から特定される個人が誰か、ということを提出するよう裁判所が指示を出せるのは、法律施行後の著作権侵害に限るということである。もうひとつの変更は、裁判所は比較評価基準[proportionality assessment]を作成するということ。つまり個人情報にアクセスするための著作権保有者のニーズと、IP番号をから特定される人物のプライバシー保護とを、はかりにかけるということ。法律が定めるところでは、一定規模の侵害でなければ、裁判所が[個人]情報を提出するような決定は出せない。 普通、そのような場合は、あるひとつの映画なり楽曲が繰り返しアップ・ロードされるような侵害が起こった時である。そういったことはたいてい、著作権保有者に深刻な損害をもたらすからである。著作権で保護されているものを相当な規模でダウン・ロードした場合も同じ決定がなされるだろう。侵害の規模がわずかで、部分的なダウンロードであるとすれば、裁判所の評価プライバシー保護が優先されるべきであり、個人情報は提出されるべきではない、というのが法律で定めてある。ス政府は、法律がどのように使われているかを監督、評価し、重大な著作権侵害が起こった場合、実際に使われることを保証するといった規定を法案は含んでいる。こうした監督行為は法律が施行されと同時にただちに開始される。

9.(U) 警察や検察にIP番号から個人を特定する権限を与えるのは、低級な(つまり懲役刑でなく罰金が求められるような)著作権犯罪に絡んでいるときである。法務大臣は法整備の変更を目標にしてきた。そうやって警察と検察がIP番号から個人を特定するための情報にアクセスできるようにするために。こういった種類の犯罪(懲役でなく罰金刑が課される)に対するスウェーデン語のよくある表現は、「低級な犯罪[crime of lower dignity]」である。現在、法を施行する役人たちがこうした情報を得ることができるのは、侵害が懲役刑に当たるようなときだけである。ス政府は法整備の変更に賛成し、このような変更を実現するのに必要な段階を提案するための研究の一部をなしている。提案された変更は最近ほかの研究と区分けされ、早くも2009年1月下旬にアスク法務大臣に報告された。法整備の経過は遅く、がっかりさせられもするが、ス政府はすでに法律強化に必要な変更については賛成している。


10.(SBU)警察と検察: 現在、
知的所有権と著作権問題に専門的に従事しているフルタイムの検察官が2人いる。警察はというと、訓練は受けてきたが、知的所有権と著作権問題のみに注意を向けることは許されていないと我々は理解している。彼らは、処理すべき優先事項がある地域で通常業務に戻っている。2人の検察はこのことが問題であると警告している ーー 捜査員の応援なしで、残務処理に追われている ーーということも我々は理解してきた。検察官らは知的所有権にとりわけ従事してきた捜査員の応援を頼んでいるが、今日、そのような捜査員はいない。スウェーデン警察庁長官がこの捜査員不足に対しどう対処しようとしているかを、法務大臣は長官に繰り返し尋ねてきた。ス政府はその必要性を分かってはいるものの、来年の予算案は、厳しい経済情勢のため、法案可決のための分はそれほど増えないであろう。この分野における追加予算が重要な影響をもたらすだろうということを強調するために、大使館[post]はス政府と産業界と一致協力できる。

11.(SBU) 公教育:2008年秋、ス政府は特に若者に向けた新しい情報教材を発行した。教材はスウェーデンの学校に広範に配布されるだろう。アスク法務大臣の職員は目下、閣僚が公の議論に入っていくことについての是非を検討している。知的財産権強化法とパイレート・ベイ訴訟に対しネガティブな(STOCKHOLM 00000141 003 OF 003 )注目が集まったことを考えれば、この決定はまったく目立っていない。ス政府は数年前-- leadingQticians [ママ(おそらく指導的立場の政治家)]が議論をしなかった時 --すでに絶好の機会を逃してしまったのではないかという危惧を抱いている。 現時点でデリケートな問題にどう取り組むか。

パイレート・ベイ ----------
12.(U)2006年5月31日にパイレート・ベイを強制捜索した後、ネット海賊行為の問題が激しくスウェーデンで議論された。報道では、当時、また現在も、権利保有者と米国政府による影響力に関して好ましくないとしている。パイレート・ベイ強制捜索は、ス政府が米国政府の圧力に屈したというように語られた。逆効果でないにしても、この微妙な状況によって、大使館が知的財産権問題における公的役割を果たすことは難しくなった。裏では、大使館はすべての利害関係者とうまくやっている。捜査の18ヶ月後、検察は、パイレート・ベイのビット・トレントのウェブページを管理したために、著作権侵害を助長したという理由で4人に対する起訴状を提出した。訴訟は現在トックホルム地裁で審理中であり、公判は3月4日に完了する予定だ。判決は3月25日頃と予想される。つまり、スペシャル301条のレビュー終了前だ。しかし、どのような結果になろうとも高裁に控訴という形をとるだろうと確信している。これは、最終的な評決が数年間は分からないままだということを意味する。

米国製薬工業協会(PhRMA)問題 --------------------------
13.(U)
米国製薬工業協会(PhRMA)も、スウェーデンをスペシャル301条の監視国に指定することを要請している。要請はス政府の製薬市場における規制緩和への決定と、再構築に投資するという目的でスウェーデン市場での特許医薬品の値下げ計画が伝えられたことに、要請は基づいている。値下げは、10%になると考えられている。

14(U)社会福祉省によると、ス政府は特許医薬品の値下げは計画していないが、[自由]価格システムに基づいた価格モデルを維持するつもりのようだ。中央政府機関である歯科・医薬品(TLV)医薬品値上げの原則を提案し、どのように製薬市場の収益性が算出され追跡調査されるかを提案するよう命じられた。TLVは今年41日、ス政府に提案の発表を行う。
15(U)3月2日の現時点で、ス政府が実際に10%の全般的な値下げすることが確認できるような決定や文書は何もない。ゆえに大使館としては、スウェーデン製薬業界の規制緩和を考慮して、同国がスペシャル301条のウォッチ・リスト(監視国)に載ることを勧告しない。しかしながら、4月1日のTLV報告書の結果として、特許医薬品の全般的な10%値下げが決定された場合、大使館はス政府に対し、再びこの問題についての高位高官レベルでの提唱を行うだろう。

***

この公電、何も知らないTassaにとって、翻訳するのは非常に難しかったのですが、かなり興味深いです。

補足すると、スペシャル301条はアメリカ合衆国の知的財産権に対する対外制裁に関する条項です。

知的財産権保護について問題のある国を、問題のある順に
「優先国」 (priority foreign country)
「優先監視国」 (priority watch list)
「監視国」 (watch list)
の3段階に指定。

海賊党などの台頭により、スウェーデンは監視国指定されそうになっていたというわけです。

この公電はガーディアンが公表した公電(09STOCKHOLM355)より前に打たれたと思われます。
「ああー、海賊党なんて変なの出てきちゃったよー。厄介だなあ。」と思ってたのが、この公電。
09STOCKHOLM355公電は、「うわ!欧州議会に海賊入ってきやがった!」と事態の「悪化」を嘆いています。

2010年のスウェーデン議会選挙前に、海賊党はウィキリークスと協定を結んでいます。
その意義について、「P2Pとかその辺のお話」さんの
スウェーデン海賊党、Wikileaksと手を結ぶ から引用↓

「Wikileaksにとって、スウェーデン海賊党からの支援は、重要な意味を持つ。もし、海賊党が来月の総選挙にて議席を獲得した場合、同党はスウェーデン政府内部からサイトを運営することになるのだが、法的手続きにより同サイトを停止しようとしても、議員特権を行使してはねつけることができるようになるのだ。」

しかし、今年9月の選挙活動期間中、普通の人は海賊党の「か」の字も聞かなかった。。
結果、海賊党は議席獲得最低得票率4%に及ばず、議会入りを果たすことはできませんでした。

もし、議会入りが実現していれば、ウィキリークスがサーバーをあっちゃこっちゃ移す必要もなく、公電公開はもっとスムーズに行われていたでしょう。

まさかスウェ─デンの国政選挙がウィキリークスの運命を左右することになるとは、さすがにTassaも思い至りませんでした。次の選挙は4年後です。遠いなあ…。

※ちなみに知的財産権強化法(IPRED法)ついてのエントリーも同ブログで読めます!(すごい…)

2010年12月14日

インターネットで覇権を握るのは?

予告しておきながら伸び伸びになってしまったアメリカのインターネット支配についてと、それに対するカウンター・ムーブメントのお話です。

ルート・サーバはアメリカがほぼ独占している

アメリカのインターネットにおいて覇権を握っているといったようなことを、ちっらと前に書きました。
その理由のひとつはルートサーバにあります。
ルートサーバとはドメイン名空間の頂点にある情報を保持するサーバだそうです。
(ウィキペディアより。なにせTassaはPC素人。否、素犬。)

世界に13あるうち10のルート・サーバをアメリカの企業や軍が所有しています。
ドメイン・ネーム・が始まった当初は、ストックホルム、アムステルダム、そして東京のルート・サーバ3つだけでした。
(ちなみにストックホルムのルート・サーバは大学が実験的に始めたもの。東京のも大学間のプロジェクトによるもの。)
一部の人には常識なのかもしれませんが、私は知らなかった。



EveryDNS.netはwikileaks.orgのドメインを潰したことは記憶に新しいです。
しかし、たとえこの会社のような個々のDNSサービス会社がドメイン潰しを拒否したとしても、最終手段としてルート・サーバから働きかけることができるそうです。

つまり、どんなに末端のDNSサーバ会社が頑張っても、その気になればルート・サーバから切断してしまえる。

2008年、ウィキリークスがスイス銀行に関するリークをした時、カリフォルニアの裁判所である決定がなされました。

以下、BBCの記事「Whistle-blower site taken offline」より引用&大意訳。

***
[…]同サイトのドメイン名を管理しているDynadot社は、サーバからウィキリークスのすべての
トレース(形跡)を抹消することを裁判所が決定し、メイン・サイトは切断された。
また、当裁判所で新たな決定が下されるまでは、wikileaks.orgのサイトや他のサイト及びサーバにアクセスできるようなドメイン名を阻止するよう、裁判所はDynadot社に指示した。
他の決定は、現在のドメイン名が別のドメインとして登録されないようドメイン名をロックすべしという決定もなされている。
ウィキリークスは決定は憲法違反であり、サイトは強制的に検閲されている、と主張した。
[以下省略]

[…]the main site was taken offline after the court ordered that Dynadot, which controls the site's domain name, should remove all traces of wikileaks from its servers.
The court also ordered that Dynadot should "prevent the domain name from resolving to the wikileaks.org website or any other website or server other than a blank park page, until further order of this Court."
Other orders included that the domain name be locked "to prevent transfer of the domain name to a different domain registrar" to prevent changes being made to the site.
Wikileaks claimed that the order was "unconstitutional" and said that the site had been "forcibly censored".

***

ドメイン名を他のDNSサービス会社に移すのを阻止することはDynadot社ひとつではできません。考えられる方法はいくつかありますが、たとえばルート・サーバからドメイン名を潰すことも可能です。
(と、知り合い談。詳しい人、教えて下さい~。)

2008年のこの時は、ウィキリークスがドメインを喪失する前に、すでに情報が出回ってしまったために、サイトを潰しても情報を止めることはできませんでした。

[追記]
日本語で読める当時の記事がありました→内部告発サイト『Wikileaks』が強制的に閉鎖――国外サーバーで対抗(ワイアード)

同じくミラーが増殖した今の状況では、ルート・サーバから切断しようとしても情報の削除はより困難になったと言えるでしょう。

ルート・サーバをアメリカがほぼ独占している状況を見ると、「硬直した資本主義は寡占へと向かう」のはインターネット界でも同様であることが分かります。
一方で、インターネットは自由に情報を共有しやすいインフラでもあり、多くのハッカーやPCオタクはそういった自由な気質を好むように思われます。
なので、一部の企業が制限できるような不自由なネット環境はイヤだ!とそれに対抗しようとする勢力もまたインターネットで生まれたわけです。

海賊党の登場

そういったグループのひとつが、海賊党(Pirate Party)です。スウェーデンの海賊党WikiLeaksとの公式協定も結んでいます。

(とりわけネットにおける)情報の民主化が喫緊の問題であり、それ以外のことには関わらないという政策理念を持っています。
でも、言論の自由があらゆる社会問題を論じることの根本にあり、インターネットが普及したことを考えれば、これは大げさでないと思います。

こちらのサイトで海賊党に関する記事の翻訳が沢山あります(このサイト、本当にすごいです)↓

P2Pとかその辺のお話

そんな海賊党がスウェ─デンで誕生したのは2006年。そして知名度を上げてきた2009年に欧州議会選挙がありました。若者を中心に多くの支持を集め、議席を獲得。

今年のスウェ─デン議会選挙

ところが2010年、スウェ─デン議会選挙のあった今年、海賊党はまったくと言っていいほど話題になりませんでした。

注目を集めたのは、スウェ─デン民主党という反移民政策を訴えている政党。彼らの作った選挙用コマーシャルは過激と話題になりました。チャンネル4ではCMに一部ぼかしでも入れないと流せないという事態に。とは言え、賛否両論ありながらも、しっかりその名を知らしめたスウェ─デン民主党。議会での議席を獲得するための必要最低得票率を満たし、20議席をスウェーデン議会に置くことになったのです。

そこで、私が思ったのは単純に、「他の少数派政党に対していくら何でも不公平なんじゃないか」ということ。ニュースで毎日これでもかというくらい「宣伝」してもらったわけですから。確かに海賊党が2009年のEU議会選挙で、同じようにメディアの注目を集めたのは間違いありません。なので、新しめの党が注目を集めるものだ、といえばそれまででしょう。

スウェ─デン民主党に対するメディア・スクラムの裏に何があったのかは分かりません。しかしながら、海賊党が注目を集めなかったのはあながち偶然ではない、ということが今回のリーク公電で明らかになったのです。
その公電について明日、詳しく書こうと思います。

ストックホルムでの自爆「テロ」にまつわる不可思議な点


ストックホルムのドロットニング通り(Drottninggatan)とオロフ・パルメ通り(Olof Palmes gata)の交差点で、1211日夜、1人の青年が車を使って自爆し、亡くなりました。
この事件は他国でも大きなニュースになりました。

ところで、この事件にはおかしな点がいくつかあるので、それらを列挙したいと思います。
いずれも噂レベルでなく、大手メディアが報じたものです。

【不可思議な点】
軍の関係者は事件が起こることを知っていた?
とある軍関係者が知人に対し、「ドロットニング通りは危ないから近づかない方がいい」という旨のショート・メッセージを数時間前に送ったとの報道がありました。

青年の携帯電話からスウェーデン保安警察、通称Säpoとスウェ─デンの通信社 、TTに犯行予告が送られたのは12分前。どうして数時間も前に現場が「危ない」、と分かったのでしょうか。(ちなみにこの通りは街の中心地にあるショッピング・ストリート。)
分かっていたのなら、なぜ何の対策もしなかったのでしょうか。

これに対し、ベアトリス・アスク(Beatrice Ask)法務大臣は「メディアの言うことだから、信用できない」との返答をしています。

しかも大手紙Svenska Dagbladetからは「軍関係者は爆破前に警告していた(Försvarsanställd varnade före dåden)」という題の記事が検索できなくなっています。キャッシュでは見れますが。

不自然な録音の声
自爆をしたとされている青年が犯行について事前に語っていた録音があります。
少し穿った見方かもしれませんが、私は内容よりも、その音声の不自然さが気になりました。
ひずみがある、と言っているのですが、なぜひずみが生じたのでしょう…

【この事件によって何が起ころうとしているのか?】
FBIスタッフをスウェ─デンに派遣
事件後、アメリカのFBIは応援部隊を送るとSäpoに申し出ました。Säpoはこれを承諾。FBI爆弾処理班の7人がスウェ─デンに入国します。実に迅速です。アスク法務大臣からは「国際間で警察の協力体制が機能している良い例だ」とのコメント。世界のどこかで自爆テロが起きる度に、アメリカはFBIのスタッフを送ってくれるのでしょうか。

警察の権限強化
ある専門家は、この事件で「数十人から数百人が巻き込まれる可能性もあった」としながらも、自爆テロによって負傷する確率は「衛星か隕石が頭に落ちてくるのと同じくらい」とニュース番組で発言しました。
(つまりこの事件、ハザードは高いがリスクは低い)

しかし、新聞ではこの専門家の話の前半しか取り上げられていない。また、ほとんどの識者、政治家の今回の事件に対する見解は「危機的状況であり、治安強化が必要」。

現在、通信傍受の権限はスウェーデン国防電波局(FRA)にあります。FRA法によると、建前として、国外からの通信のみが傍受可能であり、スウェ─デン国民の通信を傍受するのは違法ということになっています(でも、そんな区別は無理。Gmail.comだって国外からの通信に含まれてるのだ…)

しかし、この事件を機に警察に傍受権を与え、国内の通信傍受もできるようにしようという発言が法務大臣からありました。また、野党である社会民主党も、選挙前は通信傍受法そのものの廃棄を訴えていたのに、Säpoに傍受・監視の権限を拡大しようという公式発言がありました。

どの国でもそうですが、こうした事件が起きると、治安強化という名の下でいろんな政策が通りやすくなります。警察を増やしても、根本的な解決にならないということで北欧社会はもともとやってきたはずなんですけどね…。(厳罰化の世界的な広がりについては社会学者ロイック・ヴァカンの本がおすすめです。)

イスラム教系移民に対する差別
自爆をした青年がイスラム教徒だったことから、イスラム教徒に対する差別が高まるのではとの危惧もあります。
9月の選挙で議会入りを果たしたスウェ─デン民主党(移民排斥政策を提唱)の党首秘書官Alexandra BrunellはTwitter上で「#ついに(#Äntligen)」というハッシュをつけたツイートをしました。1人の人間の命が失われた事件に対して、です。これにはさすがに各方面で反感を買いましたが。

WikiLeaks関連の報道、SVTで昨日はゼロ
リーク公電が注目される中、この事件によってメディアの関心は若干ウィキリークスからそれてしまったような感じがします。日にちが経ったからニュースで取り上げるのが減る、というのはそれほどおかしなことではないとは思います。しかし、この事件は、ほとんどメディア・スクラムの様相を呈してきています。

このタイミングでこの事件が起きたことは偶然なのでしょうか。

[追記]
在ストックホルム日本大使館からは以下のメールが送られているそうです。


ストックホルムで起こった自爆テロについて以下のとおりお知らせいたします。

1.報道によれば、12月11日午後5時ごろ、ストックホルム中心部のオーロフ・パ
ルメ通りで、クリスマス前の買い物客でにぎわう中、 連続して2回の爆発があり
、1人が死亡、2人が負傷する事件が発生しました。
最初にガス缶を積んだ自動車が爆発し、数分後に約300メートル離れたブリッガ
ル通りで2度目の爆発が発生しました。

2.上記事件の背景は現時点では不明ですが、爆発の直前に、スウェーデン軍の
アフガニスタンへの派兵やスウェーデン人作家が過去 にムハンマドの風刺画を
描いたことを引き合いに犯行をほのめかす内容の電子メールが、警察及び報道機
関あてに送付されており、 この事件との関係も言及されています。
また本件に関し、警察の発表によりますと自爆テロの可能性が高く、ビルト外
相はテロ事件であるとの見方を示しています。

3.在留邦人の皆様におかれましては、テロ事件や不測の事態に巻き込まれるこ
とのないよう、最新の関連情報の入手に努め、テロの 標的となりやすい場所(
不特定多数が集まる場所、政府・警察関係施設、公共交通機関、観光施設など)
を訪問する際には、周囲の 状況に十分注意を払うなど慎重な行動をとるように
してください。
また、テロ事件が発生した場合の対応策を再点検し、状況に応じて適切な安全
対策を講じられるよう心掛けてください。
さらに、緊急事態に備え、連絡手段を常時確保できるよう心がけてください。

2010年12月13日

Googleの良心 ~ transparency report ~

WikiLeaksと少し話はそれますが、ネット上の検閲の話です。

ご存知の方も多いと思いますが、GoogleではTransparency Reportというのを公開しています。

Government Requestsは政府からの削除要請を示し、

Trafficは正常値を100とした場合の実際の通信量を示しています。

もちろん、技術上100になることは難しいです。でも極端に低いのは何らかの人為的な介入があると見る方が自然です。

これを見ると、中国は開き直って検閲しているけれど、それに対し、多くの「民主国家」もまた実は検閲をしているのが分かります。

Trafficを見ると、日本でもかなり不自然な下がり方をしています。

また、Government Requests、アメリカが最多です。
(ロシアなんかが低いのははわざわざ公式な要請をしなくとも削除ができるからという見方もできますが…)

もちろん、筋の通った(reasonable、な)削除要請もあると思います。
また、これはGoogleからの情報で、情報が偏ってないかとか、他の検索エンジンではどういう結果になるのかとかも考慮しなければいけません。Google自身もこの統計は完全ではない、と言明しています。


ただ、私はこれがGoogleの良心であり、経営精神なのだと感じました。
グラフは曖昧な感じだし、本当はもっとデータを出していいような気もしますが、それでもこういった情報がある、ということ公開していることはすごく大事です。

Google自身、Traffic FAQでその意義を説明しています:

We believe that this raw data will give people insight into whether or not our services are accessible in a given country at a given time.
 (この生のデータを示すことで、私たちのサービスがどの国でいつアクセス可能であるのか、そうでないのかについての見識を持っていただけると思います。)

中国は「社会の和」のためということで検閲を正当化。
(Blogger、You tube、facebook、そしてなんとウィキぺディアまで全面禁止。Twitterは初めから存在しない。)

アメリカなどの「民主国家」が「言論の自由」があると表面上は言いながら、検閲をする。 日本でも「反戦」「スペクタクル社会」の落書きに対し、「建造物損壊」で懲役1年2カ月、執行猶予3年の判決が出たりしてますし…。


どっちがいいなんて、もはや無意味な議論なのかもしれません。
(無論、規模で言ったら中国の公式&非公式の検閲は他国の比にならないことは確かですが)

ブログ削除に関して

12月11日未明から本日13日の夕方頃まで当ブログへのアクセスができませんでした。
心配してくださった方々、ありがとうございます。

11日にBloggerのディスカッション欄に書き込みをした所、すでに何人もの人が文句を言っているのが分かりました。

技術上のトラブルとのことですが、Bloggerはあまりはっきりした回答をしていません。
バグと言っているのですが、バグならどういう種類のものだったかなど、いまいち釈然としません。

ちなみに8日の時点でこんな内容の投稿をしたブロガーがいます(このブロガー、むしろBloggerよりも詳細な説明をいろんなところでしてくれてます。何者なんだろう?)。


The Real Blogger Status より抜粋

***
Recently, a number of blog owners have found themselves with deleted or locked blogs, and mysterious messages mentioning "Unusual activity on your account". When they try to surf their blogs, they see

    The blog you were looking for was not found. If you are the owner of this blog, please sign in.

Upon signing in, they see their dashboard, and no mention of the missing blogs. Possibly they see the advice

    You are not an author on any blogs yet, create one now to start posting!

【訳】
現在、何人ものブログ持ち主が、自分のブログが削除されたかロックされていることを確認。「あなたのアカウントで異常行為」があったとする謎のメッセージも確認された。ブログを見ようとすると以下のメッセージが表れる

あなたが探しているブログは見つかりませんでした。もしこのブログの持ち主である場合、サイン・インしてください。

サイン・インをすると、ダッシュボードはあるのに、なくなったブログについて何も書かれていない。以下の指示が表示される場合もある

まだブログを作成していません。ブログを作成後、投稿してください。

***

なぜ突然いくつものブログが消えてしまったかは分かりません。

また、最近になってGoogleがバックアップのためにと「電話番号」登録をするのを促すメッセージを出してくるのも、少し気になります。

WikiLeaksや検閲、言論の自由に関する議論が盛んになっている今、こういうことが起きてしまうと疑心暗鬼になってしまいます。(技術上のトラブルでも十分問題ですけど!)

いずれにせよ、これ以上のことは分からないので、私はとりあえずGoogleを信頼して、BloggerでTassa Leaksを続けていきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします!