2011年3月19日

本日の募金活動(in ストックホルム)の詳細と、その言い訳

ストックホルムで募金。
結構、勇気がいる。なぜなら日本はi-land(industri land/先進国)。
そして愛国心ってやつもなかなか見せ辛い(そう思ってるの私だけ?)。
面と向かって批判する人はいないけど、ハイチ、四川、チリ、ニュージーランドetc.の時、何かしたかと言われたら、心配しただけ。

純粋にちょっとでも役に立てばいいという思いや、
遠く離れた北国でも心配しているよというメッセージになればいいという思いや、
何か行動して自分の気持ちを落ち着けたいというエゴからでも、何でもいいと思う。

募金はしないという選択をとる自由と同じくらい、「心配なんです」という気持ちを表現する自由はここにもあると思うのです。

(本当は、日頃から日本大使館で「情報公開の徹底を」呼びかけるデモもするべきだったのかもしれないけど…。)

世界中で大変なことが毎日起きてるけど、悲劇の競争をするんじゃなく、大変な思いをしてる国のいろんな人が「おたくも大変なんですよね」と声を掛け合って、団結できたらいいなと思います。
今日、タイ人の友人が日本のために黙祷してくれた。ありがたかった。私はリビアの未来も祈るよ。

***

Att samla in donationer i Stockholm kräver lite mod eftersom Japan är ett i-land och att ordet patriotism är negativt laddat i Sverige (är det bara jag som tänker så?).


Det finns få som skulle kritisera en sådan aktion direkt inför oss. Men det är ett faktum att om någon frågar mig vad jag gjorde åt jordbävningarna i Haiti, Sichuan, Chili, Nya Zeeland osv, kan jag bara svara att jag tänkte på dem.
Jag tror dock att människor kan donera till Japan av flera anledningar -- för att man helt enkelt tror att det ska hjälpa någon, om än i liten grad. Eller för att man tror att handlingen kan bli ett meddelande att vi som bor i det här landet i norr tänker på dem i Japan. Eller helt enkelt av en egoistisk vilja att dämpa sin oro genom att göra någonting.

Det finns frihet att inte donera. På samma sätt finns det frihet att uttrycka sin känsla "jag är rädd om er".
(Faktiskt skulle jag demonstrera inför den japanska ambassaden för att kräva på information transparens, men jag är för feg att göra det ensam...)

Tragedi händer varje dag i hela världen. Istället för att vi tävlar vilken är ledsammare hoppas jag att vi kan säga till varandra "jag är rädd om dig". Jag vill ha en sådan solidaritet.

Min thailändska kompis bad tyst för Japan idag. Jag ber även för Libyens och de andra kämpandes framtid.
 
***
以下詳細、Facebookより転載(英・瑞・日)
https://www.facebook.com/event.php?eid=209792519034185&index=1

***
We, Japanes living in Stockholm, are organizing the 2 days donation campaign together with Swedish Red Cross at Sergels Torg in Stockholm for the earthquake in Japan.

We may be so far away and feel powerless.
But let us help and support the victims of the earthquake who are still waiting for the relief aid.

...
March 19th Saturday
12:00 - 14:00 in Sergels Torget

March 20th Sunday
13:30- 14:30 in Sergels torg

 
The money donated for this event will be sent to Red Cross in Japan through Swedish Red Cross.

For further information, please contact: prayforjapaninstockholm@yahoo.co.jp

-----------------------------------------------------

Men anledning av jordbävningskatastrofen i Japan organiserar japanska medborgare i Stockholm tillsammans med svenska Röda korset en två dagar lång hjälpkampanj.
Katastrofen har skett långt ifrån Sverige och det är lätt att känna sig maktlös. Många av katastrofens offer väntar fortfarande på hjälp. Tillsammans kan vi hjälpa dem.

Lördagen den 19 mars, klockan 12.00–14.00: Sergels torg
Söndagen den 20 mars, klockan
13.30–14.30: Sergels torg

Pengarna som doneras i samband med kampanjen skickas till Röda korset i Japan genom svenska Röda korset.

För mer information, vänligen kontakta: prayforjapaninstockholm@yahoo.co.jp

-----------------------------------------------------



ストックホルム在住の皆様へ

ストックホルム市内において今週末、街頭募金活動を行います。

【3月19日(土)】

集合:12:00 Sergels torg(T-centralen駅付近の広場)
活動:12:00-14:00(その後希望者のみ今後について話し合い。15時半には完全解散。)


【3月20日(日)】☆時間が変更になりました。

集合:13:15 Sergels torg(T-centralen駅付近の広場)
活動:13:30-14:30

※募金を集める方は両日とも身分証明証必須

参加については、1日1時間のみでも、結構です。
身分証明書持参必須でお願いします。
ご家庭に簡単なプラカード(画用紙にメッセージ)などが作れるのであれば、今回私たちがスローガンにしているPray for Japanや日本の国旗などを書いて私たちの活動の趣旨が分かるようなものを持参して頂けると嬉しいです。

ご参加頂ける方、詳しい情報については下記へご連絡ください。
prayforjapaninstockholm@yahoo.co.jp

2011年3月18日

原発に関する外国政府の対応など(スウェーデン・SVTの報道を中心に)

[追記]
有志の方によって集められた日本各地のガイガーカウンターの数値を表示している放射線モニタのまとめサイトができています↓
放射線監視モニタ: http://pow-source.com/311

----------------------------------------
映像を見ているとあまりにも辛いので、文字媒体のニュースをなるべく見るようにしています…。

まず、東京在住の方で放射線量が気になる方はこちらのページの「1時間ごとの測定値」のところが参考になります(他の自治体の資料は文科省やその転載サイトがPDFで測定値を公開しています。なんでPDFなのかという疑問はさておき…)。

また、IAEAによれば、放射線量の推移は悪くない動きだとのことです。ただし、30km圏内は大変な数値になっています。ある箇所では1時間に80〜170マイクロシーベルトが、別のポイントでは26〜95マイクロシーベルトが観測されたとのことです。(Radiation Monitoringの部分をご覧下さい。)

残された作業員や自衛隊の方、本当にごめんなさい。
無責任かもしれないけど、どうしてもの時は逃げてほしいです。助かるための職務放棄なら、私は絶対に責めません。[追記3 みなさんは特攻隊ではないのです。もし逃げても誰も責めないはずです。兵役拒否をした人間を村八分にした戦中の日本とは違うはずです。]

本題。外国政府は自国民に対し退避勧告や渡航禁止などの措置をしている(※)一方で、原発事故に対する協力を申し出ています。

本日(3/17)のSVTによるライブ・ニュースより一部抜粋。

***
日本時間 17:05
インタファクス通信によると、ロシアは外務省を通じて、原発事故における復旧作業協力を日本へ申請した。

日本時間 16:29
AFP通信によると、フランスは今日木曜、95トンのホウ素を載せた飛行機を日本へ送るという声明をエリック・ベッソン産業エネルギー相が出した。

ベッソン産業相は仏テレビで、日本に(福島原発事故の復旧作業に有効である)ホウ素供給を土曜日の時点で打診していたが、「あの時点で必要だと思わなかったか、返事をする時間がなかったのだろう」と説明している。

ホウ素は中性子〔訳注:放射能の中でも一番遮断が難しい〕を引きつけるものであり、また原子炉の核分裂を抑えることにも使える。

〔原文テキスト〕
13.05
Nyhetsbyrån Interfax uppger att Ryssland via utrikesdepartementet har erbjudit Japan hjälp med katastrofarbetet vid kärnkraftverket.

12.29
Frankrike kommer på torsdagen att skicka ett flygplan med 95 ton av grundämnet bor till Japan, uppger energi- och industriminister Eric Besson enligt AFP.

Besson förklarade i fransk tv att Japan erbjöds en leverans av bor - användbart i bekämpandet av kärnkraftshaveriet vid Fukushima - redan i lördags, men "antingen ansåg de då att de inte behövde det, eller så hade de inte tid att svara".

Grundämnet bor drar till sig neutroner och kan användas för att dämpa kärnklyvningen i reaktorn.

***


ホウ素が使い物になるといいですね。

現在、原発への賛否が世界中で問われており、ドイツでは運転を開始してから30年以上経っている原発を一時停止しました。選挙を控えた上での選択だと言われています↓
ドイツ、1980年以前に稼働した原発7基を一時停止へ(ロイター)

Tassaの住むスウェーデンでも昨日、原発反対のデモがあり、Sifoの世論調査によれば原発の賛否について「分からない」という回答が一年前の3%から21%に上昇したそうです(とは言え、原発廃止派は25%で、原発支持は依然55%と半数以上)。↓
Var fjärde svensk: Avveckla kärnkraften(スウェーデン人の4人に1人が:原発廃止を)

スウェーデンの原発政策について、ひとくちメモ
スウェーデンは70年代に脱原発運動が盛り上がり、1984年以来新たな原発建設を禁止してきました。また、2010年(つまり去年!)までに原発の完全停止する計画がありました。しかし、右派政権に交代したあたりからその流れも変わり、現在でも3つの原発にある10の原子炉(9原子炉が高経年化)が稼働しています。そして2009年、与党は現在ある原子炉を新しいのに替えることを発表しました。なので、事実上、脱原発から方向転換したことは確かです。
だからと言って、今現在原発を増やすという話はありません。積極的なのは全政党の中でも、連立政権(穏健党、国民党、中央党、キリスト教民主党)の中の国民党くらいです。ただし世論は半々ぐらい。

参照:
Kärnkraften rysare för regeringen (2010/03/18 -- Rapport)

Kärnkraftverk (Wikipedia)

退避勧告(※)例えば、福島原発80km圏内からの避難勧告を米国は出しており、スウェーデンもそれに続いています。民間でもそれぞれ対応をしているようです。


Svenska företag hjälper medarbetarna lämna Japan(スウェーデン企業、従業員が日本から出国できるよう手配)
上記記事には、出国する準備をする女性、本当に出国すべき事態なのか戸惑う男性、日本人の彼女を残してまで出国したくないと日本に留まる男性などの短いインタビューが掲載されています。
また、IKEAは1800人の社員とその家族を関西へ移動できるよう手配したそうですが、行くかどうかは個人に任せるとのこと。Erikssonは顧客のため携帯電話通信が機能するよう努める一方で、業務の必要がない社員とその家族を一時的に帰国させるとのこと。


またジャーナリストたちも帰国するようです↓
SVT-journalister lämnar Japan(SVT記者、日本から出国)

ところで、Aftenposten紙が原発関連のWL公電をアップしました↓
NUCLEAR POWER: EARTHQUAKE CAUSES FIRE AND LEAK OF RADIOACTIVE WATER AT NUCLEAR POWER PLANT

2007年の中越沖地震の際に起きた柏崎刈羽原発の事故に関してです。
秘密と言うより、そういうとをずっと叫び続けてきた人たちのかき消されてきた声が公電という形で出てきたという印象。
チェルノブイリ以来、原発について特集を何度もしてきたという鈴木耕さんの記事は非常に考えさせられるものでした↓
『時々お散歩日記』もし、原発が…(マガジン9)

-----------------------------------------------------------
[追記2]
ウィキリークス・ウォッチ・ジャパンさんで原発関連、2公電の冒頭要約部分が翻訳されています。
淡々と公電翻訳を続ける姿勢、渋いです。見習わねば…。

東京公電:過去35年間に3度しか改訂されていないIAEAの耐震安全性ガイドライン08TOKYO3432
東京公電:電力会社や経済産業省による原子力についての隠蔽08TOKYO2993

2つ目の公電には原発、とりわけ六ヶ所村の再処理工場の稼働に反対してきた河野太郎さんについて書かれており、本人も公電公開を受けて公式サイトにてコメントしています。
ウィキリークスに公表された記事に関して

-----------------------------------------------------------
六ヶ所村、浜岡…。そしてスラップ訴訟まで起こされている山口の上関原発建設反対運動。いろんな人が書いています。いや、書いてきました。
今じゃなくてもいい。落ち着いてからでも、開かれた情報・議論があることを切に願って。

また、被災地へ物資が早く届きますように。
茨城県や千葉県の被災地や、病院など必要なところにはちゃんと電気が供給されますように。
(参照:『保坂展人さんのどこどこ日記』より、「震災と同時の福島第1原発で広がる重大事態」。保坂さんも原発のことを追求してきた方々の1人です。)

エントリのタイトルが不適当な上、まとまりなくってすみません。

追伸:
日本の地震・津波・原発に世界の目が向いてる中、リビアのカダフィ政権は市民に対するさらなる爆撃を続けています。地震が起きてから、事態は悪化しています。国連はリビア上空を飛行禁止区域にして市民への爆撃を止めようという措置を取りました。反政府勢力がコントロールを握っていた街のほとんどは壊滅状態で、今ではベンガジのみになっています。そこも攻撃されるかもしれません。その一方で、国連によるリビア政府軍側への空爆など軍事力行使の承認もなされています…。

参照:
安保理、リビア飛行禁止決議採択 軍事力行使を承認(共同)

リビア反体制派に最後通告 カダフィ大佐、攻撃警告(東京新聞)

2011年3月16日

みなさまのご無事を祈ります。

ツイッターで有益な情報を流しているみなさまに頭が下がります。
何もできなくてごめんなさい。

いざ、こういう事態になったらただオロオロするだけで、電話も必要以上にかけてはいけないし、情けないですね。

お願いだから、政府には国民を信頼して、本当に必要な情報をしっかり出してほしい、それだけです。

(もんじゅの時みたいにウィキリークスに載るようなことはやめてほしい…。あと、個人的には、「こんな時に〜」という言い方で、個人の思想や発言が変に制限されないことを願います。いつでも、いや、こんな時だからこそ憲法21条の精神を!)

原発のこと、いろいろあるけど、とにかく今は職員の人たちに頼るしかなく、申し訳ないです。
福島原発にいる彼らが元気に帰ってくることを願ってやみません。
そして日本にいるみなさまのご無事を。

http://www.bbc.co.uk/news/world-middle-east-12307698
2252: Kirby Kemper, a nuclear physics professor at Florida State University, has praised the Fukushima workers who have stayed behind to battle the fires and leaks. "There are 40 people or so that are in the process of risking their lives trying to pump sea water into these plants. They are real heroes. If they get the plants full of sea water, then things will cool down and we'll be OK," he told Reuters.

(日本時間・7:52)フロリダ国立大学のKirby Kemper原子核物理学教授は、火事と放射能漏れと闘っている残された40人の福島原発職員を称えた。同教授はロイターに語った。「40人くらいが残っているのだが、これらの施設に海水注入しながら自らの命を危険に晒している。彼らは本物の英雄だ。海水注入が満杯になったら、冷却されるはずで、私たちは大丈夫だ。」

P.S.
いろんなツイートが紹介されていますが、リビアの方から電話をもらったというさんのツイートが温かかったです。リビアも今、政府軍による市民への爆撃が続いているようです。
スウェーデンでも日本のニュースが非常に大きく取り上げられていますが、こちらのニュースは明らかな人災。止められる犠牲は止めてほしいです。

リビア政府軍、アジュダビア制圧-ベンガジ直接攻撃可能に (WSJ)

2011年2月27日

『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』を読んで


ウィキリークス関連本がたくさん出ているようです。
メディア、ネット、政府や企業の透明性・説明責任などなど、いろんな問題に関わるウィキリークスという現象を議論することはとても大事だと思うので、出版業界も注目しているということは良い傾向だと思います。
多くの人がこういった問題に関心を持てば、企業や政府も「今までみたいにウカウカしてられないな〜。」と思ってマシな経営、マシな政治を始めるかもしれません(てか、それがそもそものウィキリークスの目的)。

そんな中、講談社の青木様より『ウィキリークス WikiLeaks アサンジの戦争』([著]『ガーディアン』特命取材チーム/デヴィット・リー、ルークハーディング[訳]月沢 李歌子、島田楓子)をご恵投たまわりました。
犬にくれるなんて、進歩的!多謝!(ルドルフとイッパイアッテナにも教えてあげなくちゃ!)
この本は英ガーディアン紙の視点からウィキリークスやそのリーク内容、共同作業の過程が描かれています。
ガーディアン紙は、アフガニスタンやイラクの戦争記録(War Log)や米外交公電の資料をあらかじめウィキリークスから手に入れ、独自の分析をしてきていて、英国内のメディアではウィキリークスともっともつながりの深い新聞。
(ガーデイアンのオンライン・本屋さんのページ→ WIKILEAKS: Inside Julian Assange's War on Secrecy

本当の「書評」を書くのは本一冊書くのと同じくらい難しいので、以下はあくまで「読書感想文」です。

***

まず、個人的には正直、ちょっとガッカリ。すでに知っている情報が多かったから。
とりわけ英語圏の関心ある読者にとってはそうだと思う。

そうは言っても、日本語になっていなかった「舞台裏」の話は多いし、あまり日本語のメディアで報道されなかった公電についての言及もかなりある。そういった意味では、ガーディアンがこの本を書いたことより、この本が日本語に翻訳された意義の方がむしろ大きいと思う。
出典もガーディアンだけでなく他紙の記事やドキュメンタリーなどいろいろで(だから参考文献が欲しかった!)、今までの経緯のまとめという点で有難い一冊。
ストーリー自体が面白いから、エンターテイメント性も高い(でも、たま〜に話が重複したり、脈略なく関係ない話がいきなり出てきたりするのはちょっと読みづらい…)。

私がこの本を読みたかった一番の理由は、ガーディアン紙とウィキリークスとの間に起きた亀裂について知りたかったから。
具体的に言えば、シュピーゲルも含め大手メディアとウィキリークスとの間に交わされた報道協定について、それからその亀裂は現在どのように報道に影響しているのか。

過去の記事などを読むと、両者とも相手が協定を破ったと主張していて、これは協定の内容が明確にならない限り水かけ論だな〜、と。
なので、本書で報道開始日時以外の協定内容が明らかにされ、個々の読者が両者の言い分をより公平にジャッジできるようになる、と私は期待していた。
しかし、「これが協定内容だっ!」といった感じで出ることは最後までなかった。
もしかして協定内容は秘密にしておくということが協定に含まれてるとかだったりして…(それではまるで米国流の箝口令ではないですか!)。
真相は未だ分かず。
ちなみに、ガーディアンの公電編集が偏向しているという指摘が、ロシアのプラウダ紙によってなされている(Whom do The New York Times and The Guardian work for?)。
プラウダ紙がどういう新聞かということを考慮するとしても、具体的な公電に指摘が及んでいるこの記事は要検討。

報道協定の内容だけでなく、いくつかのことが説明不足のように感じた。急いで書いたんだから、仕方ないんだろうけど…。
例えば、ウィキリークスが使っている暗号技術の話がちょっとおざなりな感じ。
書くならもうちょっと読者に分かるような書き方をした方がいいのかなーと。
暗号技術について書かないなら書かないで、成立させる書き方もできるような。
あと、人物相関図とか年表とかがあったらよかったかも。
特に日本の読者にとってはカタカナの登場人物がこれだけ出てきたら、混乱する気がする。
脇役(?)も面白い人たちが多いので、ひとりひとりの背景をもう少し詳しく書けば読みやすくなったような(私のお気に入りは、ちょっとしか出てこないけどオランダのハッカー、ロップ・ゴングリップ。なんかこの人とは友達になってみたい。本書には書かれてないけど、自由なISP作ったり、すごいことやってる人なのに、偉ぶってないし、自分は「臆病者だ」と認めてるところは親近感持ってしまう)。

スウェーデン・ラジオ(Sveriges radio)はWikiLeaks特設ページに年表があり、関連記事がリンクされている。これは、すごく親切。こういうのがあると良かった。

逆に言えば、ウィキリークスの本当の資本は、描写しきれないほど沢山の「協力者」たちなのだということだと思う。
協力者は政治家からハッカー、記者、そしてもちろん一番大事な内部告発者と多岐に渡り、ウィキリークスという現象自体が不可避的にいろんな分野に影響を及ぼしていることも示している。
プレイヤーが多様になると、利害の対立も起きてくるだろうけど、それって同時に監視の目が増えることにもなるわけで、いかさまも難しくなるかもしれない(談合がしづらい)。

本書の魅力は、ガーディアン内部での緊張感やわくわく感が伝わってくるところ。
時に、正直で、とても人間味あふれる書き方。ところどころで「既存の大手メディアだってこれだけ大事な役割を果たしてる」とか、「WL前から他メディアと協力する伝統はある」という主張が織り込まれているのはご愛嬌(ま、実際そうだし)。
意外にも、アサンジのことをそこまでけなした書き方でもなかったのも、なんかホッとした。
それから、記者たちが慣れないセキュリティ対策にわくわくしたり、四苦八苦してるところが妙に可愛らしいかった(笑)。

最後に、翻訳業界の慣行をまったく知らない者としてのつぶやき。
原書でイントロダクション(序文)になっているところをエピローグに変えてしまうのは、ちょっとどうかと…。
せめて、どうして構成を変えたのかという意図を説明した一言を添えるとか。
自分の論文が要約された時、構成を変えられたという苦い経験もあるので、筆者を尊重するなら構成をそのままにするべきだと思う。

***

ソーシャル・メディアの登場によってネット上での情報の流れが加速する中、「ウィキリークス」という現象をきちんと1冊の本という形で記録しておくことは非常に大事だと思います。
なんだかんだ言って、本書がこの現象を理解するための数少ない参考文献であることは間違いないです。
少しでも多くの人に読まれ、建設的な議論に発展することを願っています。